まだないものを数えていた【第12話】
〜20日目の気づき〜
カチャ。
小さく音を立てて、お弁当の蓋を閉めました。
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キッチンの窓の向こうには、
ゆっくりと形を変えながら流れていく、白い雲。
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それをぼんやりと見つめていたとき、
ふと、ひとつの数字が頭をよぎった。
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「ああ、ここへ来て、もう20日が過ぎたんだな」
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最初は、もっとゆっくり歩くつもりだった。
誰かと自分を比べない。
数字や、目に見える成果ばかりに振り回されない。
そんな、心が呼吸できる場所を探して、
私はここへやって来たはずだった。
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あの頃は、暗闇に向かって言葉を投げかけているようだった。
投稿しても、反応はほとんどない。
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読まれたのか、それとも誰の目にも留まっていないのか。
それすら分からないまま、
それでも、毎日ひとつずつ、
祈るように言葉を置いていた。
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けれど、あきらめずに続けているうちに、
少しずつ、
目の前の景色が変わっていった。
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気がつけば、
私の言葉に足を止めてくれる人がいた。
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「ここにいるよ」と、
あたたかく話しかけてくれる人がいた。
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そして、20日目の今。
おかげさまで、私の小さな場所に、登録者が20人。
いいねや、胸がじわっと熱くなるようなコメントをくださる方も、
少しずつ、少しずつ増えている。
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本当に、ありがたくて、奇跡のようなことだと思う。
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……でも。
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ふと隣の道に目をやると、
そこには1000人という人が集まり、
眩しいほどの賑わいを見せている。
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「いいな……」
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正直に言えば、
そう羨む気持ちが、
胸の奥をチクリと刺す日もある。
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もっとたくさんの人に読まれたら。
もっと遠くの誰かまで、
私の声が届いたら、
どんなにいいだろう。
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そんな、少し欲張りなことを考えていた、その時だった。
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もし――もしも、だよ?
突然、登録者がどーんと増えて、
通知の音が鳴り止まなくなったら。
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いいねやコメントが、
津波のように次々と届いたら。
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「私は……ちゃんと、その一人ひとりに向き合えるんだろうか」
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そう想像した瞬間、頭の中にひとつの、
おかしな景色が浮かび上がった。
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大きな、大きな石が、
私の平穏な毎日に向かって、
突然ゴロゴロと転がり込んでくるのです。
――どーん!
「ちょっと待って、待って!」
私は慌てて家を飛び出し、
必死になってその巨大な石を両手で押し返しました。
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「どう扱えばいいの? どこに置けばいいの!?」
転がっていかないように、
体ごと石に寄り添いながら、
一人であたふた、大騒ぎしている。
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……そんな自分の姿がありありと浮かんで、
思わずクスッと笑ってしまいました。
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まだ来てもいない、起きてもいない「大きな石」の心配を、
私はなんて真剣に思っていたんだろう。
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その時、すーっと霧が晴れるように、ひとつの想いに辿り着きました。
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私はどうやら、誰かの前を歩いて「こちらですよ」と道を教えるような、
立派な立場にはなれないみたいです。
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どちらへ行けば正しいのか。
何が正解の生き方なのか。
そんなこと、何十年生きてきた今だって、さっぱり分からない。
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隣の人を見て羨ましくなる日もあれば、
足が止まる日もある。
思いきり遠回りをして、ため息をつく日だってある。
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でも――。
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「一緒に歩くこと」なら、できるのかもしれない。
「私も同じですよ」
「私も、今すごく迷っているんです」
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そんなふうに格好つけずにお喋りしながら、
肩を並べて歩くことなら、私にもできる。
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20日前の私は、ここでは誰にも知られていない、迷子のような存在だった。
でも今は、私の不器用な言葉に耳を傾け、話しかけてくれる人がいる。
応援してくれる人がいる。
一緒に歩いてくれる人が、確かにいる。
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もしかしたら、私が本当に欲しかったものは、
あの圧倒されるような「大きな石」なんかではなくて……。
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今、私の目の前にある、
このあたたかな温度だったのかもしれない。
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雲は、いつの間にか形を変えて、遠くへ流れていった。
今日も、会いたい人たちがいる。
そのことが、今の私を、何よりも優しく支えてくれている。
さて、
出かける準備はじめようっか。
この物語は、
大きな成功を手に入れる話ではありません。
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まだないものを追いかけながら、
今あるものを見失いそうになった私が、
ふと立ち止まった日のお話です。
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もし今、
隣の景色が少し眩しく見えているなら。
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そんな日も悪くないのかもしれません。
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よかったら、
また遊びに来てください🏡☁️🌿✨






よしみさん。こんにちは。
substackって、本当に積み重ねですよね。
焦らず1記事ずつ、丁寧に届けていくことで、素敵な方々とお会いできる場所なんだなぁと、私は思っています。
いつだって隣の芝は青く見える。でも周りから見ているだけでは本当に青いかどうかはわからない。そうやって行ったり来たりしながら自分と向き合い進んでいけるといいですね。